『Cybernetic being symposium ―身体的共創で生み出すサイバネティック・アバター社会の未来―』レポート③ 研究開発課題推進チームの活動紹介「CAの社会実装に向けて」

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本記事は「身体的共創を生み出すサイバネティック・アバター技術と社会基盤の開発」“Project Cybernetic being”が主催したシンポジウムのレポート記事です。本レポートは、3部構成でお送りします。

 

レポート① “Project Cybernetic being”が目指す未来社会
https://cybernetic-being.org/articles/211015_cybernetic_being_symposium_1/

レポート② 研究開発課題推進チームの活動紹介「CAを通じた人の能力拡張に向けて
https://cybernetic-being.org/articles/211015_cybernetic_being_symposium_2/

 

キックオフシンポジウムでは、研究開発課題推進チームの活動を紹介。CA基盤研究G、社会共創研究G、社会システム研究Gの3グループから代表者が登壇し、後半では、構想ディレクター(PD)である萩田紀博氏を招いたパネルセッションが展開されました。その様子をレポートします。

研究開発課題推進チームの活動紹介② 「CAの社会実装に向けて」

南澤孝太(以下、南澤):それでは後半のセッションを始めていきたいと思います。後半は「CAの社会実装に向けて」と題して、CA基盤研究G から深堀昂さん、社会共創研究Gから吉藤オリィさん、社会システム研究Gから赤坂亮太さん、OriHimeを通して江間有沙さんにご参加いただきます。

 

同じ1つの山を登る時に両サイドから登っていくことは、これからの研究開発において非常に重要だと考えています。前半では基礎研究、テクノロジー側からアプローチしてきましたが、ここからは、社会や産業側からアプローチし、新しく生まれてくる概念を未来の社会につなげていく方法を議論していきたいと思います。

 

 

CA基盤研究G

深堀昂(以下、深堀):avatarin株式会社代表の深堀昂と申します。CA基盤研究Gでは、これまでavatrainで取り組んできたものをこのプロジェクトで役立てられればと思います。

avatrainはANAグループを母体としたエアライン以外の移動手段の提供を目指すスタートアップです。最近では、遠隔操作ロボットnewme(ニューミー)を操作して瞬間移動するかのように世界各地を観光できる次世代の移動体験サービスの提供を開始しました。新型コロナウイルス感染症の影響により、行きたいところに行けない、会いたい人に会えないという状況を誰しもが経験したわけですが、生身の身体以外で各地を移動できる異なる身体やサービスがあると、新しい可能性が拓けていくのではないかと考えています。

遠隔操作ロボットnewme

また、賞金総額10億円、世界81カ国820チームが参加するアバターロボットを開発する国際技術コンテスト「ANA AVATAR XPRIZE」を主催しており、この大会で挙がった課題やルールもこのプロジェクトに役立てられればと考えています。

 

CAインフラを社会実装する上でまず課題になるのは通信環境です。アバターをリアルタイムで動かせる通信環境はまだ充実しているとは言い難いため、その整備をするために、各通信会社や政府など官民問わず提言していければと思います。

 

加えて、オペレーションの課題が挙げられます。以前夜間の弊社オフィスを解放してアバターロボットを使った会議をしたのですが、セキュリティのセンサーにロボットが反応してしまったことがありました。これまでになかったものごとを実装するためには、それに対応する運用方法やルールが必要になります。それらについてもゼロから考えていきたいなと。

 

本プロジェクトを通してでしか検討、実証が難しい通信プロトコル、アルゴリズムなど、すでに民間で研究開発が進んでいる技術も活用しながら、社会に成果として発表できればと思います。

 

 

社会共創研究G

吉藤オリィ(以下、オリィ):株式会社オリィ研究所の吉藤オリィです。社会共創研究Gのメンバーとしてこのプロジェクトに参加します。幼い頃から身体が弱く、さまざまなハンデを感じてきた当事者として、それぞれの場面に生じる身体的な課題を解決していきたいと思い続けています。

 

オリィ研究所では、私が早稲田大学在学中の2010年に発表した分身ロボットOriHime(オリヒメ)などを使った事業に取り組んでいます。このOriHimeは全国の特別支援学校などでも使われており、他にも海外旅行、お墓参りや結婚式などの​​さまざまな場面で活用されています。また、眼球の動きだけでコンピュータの操作であったり、絵を描いたりもできる「OriHime eye+Switch」という視線入力による意思伝達装置の開発しています。こちらは厚生労働省が定める補装具費支給制度を活用すれば、患者さんは1割負担で購入可能です。

 

将来的に皆さんも老化に伴う身体機能の低下は免れられません。寝たきりの先を人類は誰も知らないため、寝たきりの先輩とも言えるALSはじめ難病を抱えるメンバーと共に、ありうべきもうひとつの身体について研究しています。

 

これまでは身体が動かなくなると、それまでの仕事を継続できなくなったり、寝たきりの人の社会参加が難しくなってしまう場面が多くありました。この課題を解決するために2016年からテレワークを提唱し続け、2021年6月からは寝たきりの人たちなどがロボットを操作して働く常設実験店としての「分身ロボットカフェ DAWN ver.β」をスタートしています。

 

分身ロボットカフェ DAWN ver.β

全国の身体の動かないメンバーがロボットを操作して各地にいながら、同じ場所で働ける環境をつくってみたところ、働くメンバーが前向きな考え方に変わっていくことがわかりました。中には何年も働くことができ、これまで引きこもっていた人がロボットを通して人とコミュニケーションするようになり、ある程度人前にも出られるようになったというケースもあります。

 

一部の企業からは分身ロボットカフェの様子から障がい者雇用の可能性を感じてもらえるようになり、分身ロボットカフェからヘッドハントされて他の企業への就職が決まった方も増えてきたため、人材紹介も手がけています。

 

我々はロボットつくってるだけの会社ではありません。孤独という問題の解消に向き合いながら、遠隔操作ロボットを開発し、それを使った就労トレーニングを提供して、他の企業に就職したあとまで一緒に歩んでいくチームになりつつあります。

 

ロボットを使って働く実験をずっとやってきたため、自然発生的に複数のロボットを同時に操作しながら働くという事例も起きつつあります。このプロジェクトでも、こちらか強制するのではなく操作する人がもっとやりたいという意思を自由に発揮できる状況やより多くの経験を得られる仕組みなどをつくっていければと考えています。

 

南澤:OriHimeを使って働いてる方々はまさにこのプロジェクトが目指す未来における先輩になると思います。現在働いている人たちの中でどのようなことが起こっているのか。また、どのような事例が起き得るのかについてお聞かせください。

 

オリィ:最近では、寝たきりのメンバーたちが最近寝かせてもらえない、人生が足りないって本気で言い始めてるんです。同じ空間の中にいるロボット2台とも1人が同時に操作しているということはすでに起こっています。また数分前まで大分で働いていた人が、いまは東京で働いているなんてことはよくあります。距離などの制約を超えた新しい働き方は今後さらにたくさん生み出せるのではないかと思います。

 

南澤:では、誰もがアバターロボットを使えるようにすることがavatarinのミッションかと思いますが、深堀さんから見てどのような新しい可能性を感じられているのでしょうか?

 

深堀:移動という点で言えば、もしルーブル美術館に家族旅行で行ったとしたら数十万円以上の出費がある上に、限られた時間の中で見るものも限定されてしまうかと思うんです。ただ、もしアバターを使えば距離の制約がなくなり、もっと安い費用で、極論毎日何時間でも見に行けるわけです。また、閉館後でも使えれば閉館時間という制約がなくなります。そうなると、時間空間の制約が薄れ、当たり前のリアル空間の使われ方は大きく変わるのではないかと思いますね。

 

CA基盤研究G、社会共創研究G、社会システム研究Gの3グループの代表者。社会システム研究Gの江間はOriHimeからの参加となった。

社会システム研究G

南澤:オリィさんの事例で言えば、お金を稼ぐということ以上に他の人と一緒になにかをする、社会に参加するということが本質になるかと思います。また、深堀さんの事例で言えば、移動と体験を切り離し、体験だけを抽出することがエッセンスなのかなと。いずれも、サイバネティック・アバターからも生まれてくるものなのかもしれないと感じました。

 

このCAが社会に普及するために考えなくてはならないのは、社会がそれをどのように受け入れるのかということです。その点について検証していくのが、このプロジェクトの社会システム研究Gになるかと思います。

 

赤坂亮太(以下、赤坂):大阪大学の赤坂亮太と申します。AIやロボットが人を怪我させた場合の対処法や自動運転のルールなど、ロボットやAIなど先端技術の法的な問題を専門としています。このプロジェクトでは、サイバネティック・アバターについてもどのような法解釈で対応できるのか、どのような法制度があるべきなのかなど、提言を含めて考えていければと思います。

 

江間有沙(以下、江間):東京大学未来ビジョン研究センター准教授の江間有沙です。本日は遠隔地からOriHimeを使って参加しています。専門は科学技術社会論で、このプロジェクトを通して、科学技術がどのように社会に受け入れられていくのか、どのようなことに気を付けていればいいのか、私たちはどのような社会に住みたいのか、などについて考えていきたいと思います。

 

南澤:このグループでは、どのようなビジョンに取り組まれているのでしょうか?

 

赤坂:法律と科学技術社会論の専門家2人だけで社会や法律、倫理などの広範な問題を全て扱えるわけではないため、さまざまなステークホルダーの方に集まってもらう研究会を今年度に入ってから数回開催しています。事故が起きてしまった際の責任の所在や救済方法、行動データの共有に関するプライバシーや知的財産権の問題など、こういった技術が社会に浸透していく上での方策を各分野の専門家の方々などと共に引き続き議論できればなと。

 

江間:既に多くの課題が山積であることはこれまでの発表の中でもおわかりいただけるかと思います。プラットフォーマーに関する国際的なルールをどのように設定すべきかという大きな問題から、リアルな身体とアバターなどの異なる身体のアイデンティティをどのように接続できるのかなど、論点の整備は十分とは言えない状況なので、すこしずつ議論を進めていければと思います。

 

アバターを使ったサービスが抱えうる課題

南澤:実際アバターを使ったサービスを展開する上で、受け入れ側の課題はいくつか出てきているかと思うのですが、今後解決していきたい課題にどのようなものがあるのでしょうか?

 

深堀:アバターで旅行をする場合、どこから接続しているのかが重要になります。土地ごとの法規はさまざまなため、その点については慎重に準備していかなくてはいけません。これは我々スタートアップだけで取り組める課題ではないため、このプロジェクトで解消していければなと。

 

また、アバターを通して国を跨いで就労した場合について、手続きや処理、税金の納め先などはまだまだ不明瞭です。その点も整理が必要かと思います。ほかにも、本人証明が必要な場面でアバターが対象とされないということも想定されます。生身の身体でないと私ではないのかという問いは今後出てくるかもしれませんね。

 

いずれの課題についても、その整理は国内のみで完結して取り組むべきか、国際的に取り組むべきかも検討しなくてはならないため、前述のXPRIZE参加グループやこのプロジェクトのメンバーなどと共に、リアルの市場から挙がった課題について解決する枠組みをつくっていくべきかなと思っています。

 

南澤:これまで人類は物理的な肉体の存在する場所を前提に国境線を引いて、そこからルールをつくって運用してきましたが、デジタルというレイヤーを超えて広がっていく中でその物理的境界線の意味は薄れつつあります。とはいえ、やはり我々の肉体は存在している以上、なんらかの整合性を取りながらルールのあり方を考えなくてならないのかもしれませんね。

 

オリィ:深堀さんがおっしゃった通り、海外にお住まいの方から働きたいという声も届いてはいるのですが、その対応はまだ明確ではありません。また、障害を持つ方に向けた社会的な保障も、基本的には働けないという前提のもと支給されているものもあるため、ロボットを通して働いている場合は受給できなくなってしまうかもしれません。諸規則はそのような状況を想定されていなかった時代につくられたものもあるため、それが障壁になっているケースはありますね。

 

今回、「DAWN」で実際に働いているメンバーがOriHimeから参加してくれているため、話を聞いてみたいと思います。まずは自己紹介からお願いします。

 

ゆーちゃん:ゆーちゃんと申します。半年ほど前からカフェでお仕事をさせていただいています。私は24時間介助が必要なため、それまではなかなか外で働くことができませんでした。ですが、オリィ研究所と出会って、夢であった接客の仕事、人と話す仕事ができるようになり、毎日本当に楽しい日々を送っています。

 

南澤:カフェで働き始めてから、自分の中で変わったことはありましたか?

 

ゆーちゃん:私自身人と話すことがあまり得意ではなかったのですが、せっかくの機会に挑戦としてカフェで働き始めました。その中で自分も接客の仕事ができるということが分かり、周りの方からも最近生き生きしているねと言われることも増えましたし、そう言われることでもっといろんなことに挑戦してみたいという前向きな気持ちになれていますね。

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