「人生経験を交換する」〜追体験で広がる人生や心〜Cybernetic being Meetup vol.05 レポート

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 サイバネティック・アバターの研究と実装を通じて「身体的共創とは何か」を探究してきたProject Cybernetic being。その最前線と未来展望を共有する場として始まったMeetupシリーズは、今回で5回目を迎えました。

 これまでのMeetupでは、分身ロボット、触覚提示、身体の拡張技術など、物理的な身体能力を拡張する視点が中心に据えられてきました。しかし今回は、メタバースというバーチャル空間を通じて、「人生そのもの」や「過去の経験」といった時間軸を含む話題に及びました。

 

 「人生経験を交換する」と題してサイバネティック・アバターが拓く、人生・心拡張の可能性をテーマに、他者の記憶に触れる、語りを介して自らの過去を再構成するといった研究の取り組みを通じて、メタバース時代における「人間存在の拡張とは何か」を見つめ直す時間となりました。

 

 ゲストとして、Projrct Cybernetic beingのプロジェクトメンバーである東京大学の畑田さんと同プロジェクトメンバーであるクラスター株式会社の平木さんをお迎えしました。

VRが拓く自己と社会の新たな接点

畑田裕二(東京大学大学院情報学環 助教)

 人の心を変える体験や他者理解に関心があると語る畑田さんは、「人生経験交換」という研究テーマに至るまでの経緯として、分身ロボットカフェでの実践を紹介しました。

 

 「分身ロボットカフェとは、外出困難な人が分身ロボット『OriHime』を遠隔操作し、カフェ接客を通じて社会とつながる常設実験カフェです。OriHimeを操縦するパイロットたちとの実証実験の中で特に印象的だったのは、『止まった時間が動き出した』というあるパイロットの言葉です。寝たきりで単調な日々を送っていた方が、OriHimeを通じて他者と接する中で、日々に変化が生まれ、止まっていた時間が動いたのです」(畑田)

 

 同カフェでの接客にバーチャルアバターを導入した本プロジェクトによる実験では、全員同じ見た目のOriHimeと、自身の希望するアバターを切り替えながら“分身”として接客する実験が行われました。

 

 「各パイロットが希望するアバターを作成し、接客する過程で、自分の理想像がどのように形成されていくかが見えてきて興味深かったです。欲望や感覚しかなかったものが、他者との関係の中で明確になっていきました」(畑田)

 

 セッションの中で畑田さんは、VRが『究極の共感マシン』と期待される側面がある一方で、視覚情報に偏り、身体感覚が伴わない現状では、人生の意味まで伝えるには不十分であるというVRのもつ限界の側面にも言及しました。

 

 実験室での単発的な体験ではなく、日常生活の中で他者と共に「場を作る」ことの重要性から、子育てと仕事の両立の苦労をVRで体験し、対話の「共通言語」として機能させるワークショップの取り組みを紹介しました。 そしてこの考え方を発展させたのが、今回のテーマである「人生経験交換メタバース」だといいます。

 

 「人生経験交換メタバース」は、他者の人生のターニングポイントや過去の重要な思い出をVR体験として表現し、それを他者と共有することで、過去の見え方を変え、未来の行動の可能性を議論することを目的としています。実際に、メタバースプラットフォーム「cluster」上に、ユーザーの人生を表現した約30の「ワールド」が公開され、病や喪失体験、研究の記憶まで、多様な人生が3D空間で語られています。

 

 これらのワールドは、単なる記録ではなく、対話を通じて過去を再解釈し、新たな意味を生む場になると考えています」(畑田)

 

 人の心を変える体験や他者理解に関心があると語る畑田さんは、「人生経験交換」という研究テーマに至るまでの経緯として、分身ロボットカフェでの実践を紹介しました。

 

 「分身ロボットカフェとは、外出困難な人が分身ロボット『OriHime』を遠隔操作し、カフェ接客を通じて社会とつながる常設実験カフェです。OriHimeを操縦するパイロットたちとの実証実験の中で特に印象的だったのは、『止まった時間が動き出した』というあるパイロットの言葉です。寝たきりで単調な日々を送っていた方が、OriHimeを通じて他者と接する中で、日々に変化が生まれ、止まっていた時間が動いたのです」(畑田)

 

 同カフェでの接客にバーチャルアバターを導入した本プロジェクトによる実験では、全員同じ見た目のOriHimeと、自身の希望するアバターを切り替えながら“分身”として接客する実験が行われました。

 

 「各パイロットが希望するアバターを作成し、接客する過程で、自分の理想像がどのように形成されていくかが見えてきて興味深かったです。欲望や感覚しかなかったものが、他者との関係の中で明確になっていきました」(畑田)

 

 セッションの中で畑田さんは、VRが『究極の共感マシン』と期待される側面がある一方で、視覚情報に偏り、身体感覚が伴わない現状では、人生の意味まで伝えるには不十分であるというVRのもつ限界の側面にも言及しました。

 

 実験室での単発的な体験ではなく、日常生活の中で他者と共に「場を作る」ことの重要性から、子育てと仕事の両立の苦労をVRで体験し、対話の「共通言語」として機能させるワークショップの取り組みを紹介しました。 そしてこの考え方を発展させたのが、今回のテーマである「人生経験交換メタバース」だといいます。

 

 「人生経験交換メタバース」は、他者の人生のターニングポイントや過去の重要な思い出をVR体験として表現し、それを他者と共有することで、過去の見え方を変え、未来の行動の可能性を議論することを目的としています。実際に、メタバースプラットフォーム「cluster」上に、ユーザーの人生を表現した約30の「ワールド」が公開され、病や喪失体験、研究の記憶まで、多様な人生が3D空間で語られています。これらのワールドは、単なる記録ではなく、対話を通じて過去を再解釈し、新たな意味を生む場になると考えています」(畑田)

メタバースを活用した大規模VR実験の最前線

平木 剛史(筑波大学図書館情報メディア系 准教授/クラスター株式会社メタバース研究所)

 VR・メタバース研究を専門する、筑波大学、クラスター株式会社メタバース研究所の平木剛史さんが紹介した取組みが、人の行動や感覚をメタバースで観測し、科学的に扱うための新たな社会実験基盤として構築する「LUIDA(ルイーダ)」です。

 

 LUIDAは、メタバース上で大規模なVR実験を実施するための研究基盤となることを目的として、設計から配信、データ収集・分析までを一元化できる仕組みを有しています。メタバースプラットフォーム「cluster」上に実装された実験フレームワークとして構築されています。「最近では、実際にLUIDAを用いて、プロテウス効果やフィッツの法則といった代表的なVR実験を追試する取り組みが行われました。その結果、わずか1週間で約500人分のデータが集まり、元論文と同様の傾向が確認されました。従来のVR実験では数十人を集めるだけでも困難であったことを考えると、メタバースを活用することでスケールできると実感しました。

 

 一方で、導入した研究者からは『設定が簡単で便利』という肯定的な感想もあったものの、『テンプレートが複雑で扱いづらい』『被験者の行動が見えにくい』といった課題も指摘されました。今後はUI/UXの改良や、他のプラットフォームとの連携、行動ログの精密化などが必要になると考えています」(平木)

 

 現在は、clusterに蓄積される行動ログの活用も進められています。ユーザーがワールド内でどこに滞在していたかといった情報をヒートマップで可視化し、空間内での行動傾向を分析可能にする情報基盤の整備が行われています。

 

 「現実世界では取得が難しい高解像度の行動データが、メタバースでは自然に収集できます。これは非常に大きな価値だと感じています。一方で、こうしたデータの利活用には、倫理的な配慮が欠かせません。LUIDAでは、匿名化されたIDの管理、利用目的の明示と同意取得、データ削除申請への対応といった、ユーザーの信頼に配慮した設計が実装されています。

これはLUIDAに限らず、XRをはじめとした様々な機器が普及していく中での新たな課題だと考えています。本人が気づかないまま録画されている状態や、視線など個人性が高いデータが収集されてしまう問題など多様な課題が出てくると予想されます。たとえば録画中にはLEDを点灯させる、あるいは一定エリアでは記録を禁止するといった、ハードウェアとルールの両面から予防的な措置を講じることが重要だと考えています。」(平木)

余白のある再現から、意味の再編へ

 クロストークでは、南澤PMが、これまでのMeetupを振り返りつつ、今回のテーマの特徴について言及しました。

 

 「これまではフィジカルな身体の拡張にフォーカスしてきましたが、今回は大きく方向が変わりました。メタバースという環境だからこそ可能な、人生そのものを扱うような問いに踏み込めた回になっていると思っています」(南澤)

 

 「他者と語り合うことによって過去の出来事、その人の人生は新たな意味を帯びていきます。VRやアバターを用いて記憶を“保存”するだけでなく、誰かと一緒にその場に入り、語り直すことで記憶が変わる。それこそがこの人生経験交換メタバースの本質だと感じています。

 

 空間に配置された“モノ”や“場の余白”が記憶を刺激する装置になり、「正確な再現」ではなく「語りを誘発する余白」の設計が鍵になるのではと考えています。これからも、再現というより“意味の再編”が起きるような空間をつくっていきたいです。」(畑田)

 これに応じて平木さんは、LUIDAのような実験環境を支える立場から、語られる経験とデータの関係について次のように述べました。

 

 「数値で可視化されたログだけでは、その体験が何を意味していたのかまでは分かりません。実験の“前後”にある語りや関係性をどう設計するかが、これからのメタバース社会実験には不可欠になると考えています。人生を共有することが、人と人との関係性を変える力を持つ。誰かの記憶に触れることで、その人への理解や距離感が変わる。そうした小さな変化の積み重ねが、技術と社会の接続点になるのではないでしょうか。」(平木)

 

 「Project Cybernetic beingは、できなかったことができるようになるという機能的な拡張だけではなく、『忘れられていたことに触れ直す』『思い出せなかった感情にアクセスする』ような、人生や時間の拡張にも向かいつつあると思います」(南澤)

 

 バーチャル空間であっても、語られた経験は現実の関係性に作用し、過去と現在をつなぐ糸口になる。技術と人生が交差する、その接点に立ち現れた問いが、この日のMeetupを締めくくりました。

 

 当日のイベント内容を詳しく知りたい方は、下記のYouTubeのアーカイブから、配信の様子をご覧いただけます。

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